ロイとジョレスはロシアの歴史学者です。
彼らは昨今のロシア情勢について深刻に話し合っていました。
ロイ:ああ、ロシアよ。わが愛すべき祖国よ。
ジョレス:なんだい急に。ロシア国歌なんか呟いちゃって。メロディがソ連のものだから、郷愁を感じるだなんて言いださないでくれよ。
ロイ:兄ちゃん、おれたちのロシアは、何故こんなにも「遅れた、野蛮な」国家なのだろうか。
ジョレス:藪から棒に何だい。
ロイ:あのスターリンも言っている。
「旧ロシアの歴史は、なによりもまず、 遅れていたために、 間断なく打ち負かされた記録であった。 モンゴルのハンにやられた。 トルコのサトラップにやられた。 スウェーデンの王にやられた。 ポーランドとリトアニアの領主にやられた。 イギリスとフランスの資本家にやられた。 日本の軍閥にやられた。」
ジョレス:そしていまは遅れていたためにウクライナを侵略してしまって、米欧の軍事援助にやられている、というわけだね。
ロイ:わがロシアのこうした問題は解決できるのだろうか。
ジョレス:ロシアが「遅れていて、野蛮な」国家だという問題は、ロシアに敵対的な側の歴史学では宿命論的な調子で片付けられている。
たとえばナチスドイツは「そもそもスラブ民族に国家形成の能力はなかった」というふうに言っているし、
それよりももっと洗練された米英の歴史学では、ロシアは地政学的な条件から遅れた、野蛮な専制政治が発達する、としている。
ロイ:じゃあこの問題は宿命として受け入れなければならないっていうのか?
ジョレス:ぼくはそうは思わない。歴史上、辿るべきコースは複数あったというのがぼくの確信さ。ロシアだって例外ではない。
たとえばナロードニキやボルシェヴィキが史実よりもっとうまくやっていたら?
あるいはウィッテの政策やクロパトキンの作戦が史実よりもっとうまくすすんでいたら?
こうした歴史のifは、ぼくたちの有り得た可能性について考えさせてくれるだろう。
ロイ:もしデカブリストたちがもっとうまくやっていたら?
ジョレス:立派な反事実的考察だね。
ロイ:あーあ、これを検証する手段がどこかにないものか。ほら、最近はやりのAIとか。
ジョレス:スウェーデン社が開発した高性能の歴史シミュレーションゲームがある。それをつかって、ロシアの有り得た可能性を探ってみよう。
ロイ:よしきた。